2016年09月27日

阿佐ヶ谷の孤独の宇宙

昔阿佐ヶ谷に一人暮らしをしていた頃。
ある日その阿佐ヶ谷のアパートの扉を開いて、足を一歩踏み入れると暗くて冷たい床にストンと吸い込まれてしまいそうな気がしたから、トンッとジャンプしてベットまで潜り込んだ。
そうしないともう戻ってこれなそうだから、そこはきっと深くて冷たい底の底だから。
それからというもの家に帰り扉をあけてすぐにベットにジャンプして潜り込む日々だった。

ある夜、私は芋虫のように丸まってベットで寝ていたら、ベットの中に何かが横たわっていることに気づいたんだ。
いつからいたのかさっぱりわからないけど、それから毎日真っ暗で冷たい何かがずっとベットの中にいて、私にひっつくように横たわっているんだよ。

アパートの外に出るとどこに行ってもグレーの霧が私につきまとっていて、目の前はいつでもモヤモヤしていて、息の仕方がわからなくなってしまうほどで、苦しくて苦しくて仕方ないからずっとベットの中に芋虫のように丸まっていた。
喋る人なんてだれもいない、ベットの中だけが私の居場所で、いつのまにか真っ暗の冷たい何かが私の唯一の友達になっていて、私は毎晩抱きしめて寝るようになったんだ。
そうしているとなんだか溶けるような、私の体が真っ暗に混じっていくような感覚になって、その感覚がドキドキするほど気持ちよかったんだよ。

もうね、私はその真っ暗の冷たい何かが隣にいるのが心地よくて、最初の怖さが嘘みたいに心地よくてずっとずっと抱きしめていたかったんだよ。

そんな日々がずっと続いていたのだけど、そんな毎日に飽きてきたのか、その日私はジャンプしないでゆっくりと床に足を落としてみたくなったんだ。
そーっと足を落としてみると、スーっと冷たい風が足の裏をくすぐる。
そしてまるでブラックホールのようんに、するすると私の体は床のずっと奥に吸い込まれていったんだ。

どこまで吸い込まれるのだろう、ちょっと怖かったのだけど、それよりもふっと体に触れる冷たい風が、吸い込まれる感覚がとても気持ちよくて、今でもたまにあの感覚を思い出すけど、そのたびにとうっとりとしてしまうの。
それは多分底なしで、宇宙に近づいているような、いえ宇宙だったのかもしれないと今は思うんだ。

あのアパートから引っ越して、もうあの底なしの真っ黒に溺れることはなくなったけど、たまにあの感覚が懐かしくもなるんだ。
阿佐ヶ谷のアパートの真っ暗で冷たいあいつと、
そしてあの底なしの真っ暗の床に、宇宙と繋がっている床に身を任せたくなるんだよ。
永遠に帰ってこれなくてもいいくらい、心がとけるくらい心地よかったんだよ。
posted by kyoko at 05:23| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする